1、はじめに
2022年4月1日からアスベスト(石綿)が飛散するのを防ぐための規制が強化されたのをご存じでしょうか? 2021年4月から原則すべての建築物で工事前にアスベストの有無を調べる「事前調査」の実施が義務付けされました。 今春からはさらに行政に義務が追加されます。 アスベストの事前調査は解体だけではなく、屋根や外壁リフォーム等にも関わりがあります。 今回は今春の法改正でアスベストの規制がどのように強化されるのか、アスベストにはなぜ法規制が必要なのか等を詳しくご説明します。
2、アスベストとは?
まずよく耳にするアスベスト(石綿)とはどういったものなのでしょうか?
アスベストは生活のいたるところで使用されてきました。 アスベストの用途は3000種類と言われるほど多いのですが、大きくは石綿工業製品と建材製品に分けられ、その8割は建材製品です。 アスベストを使用した建材製品は1955年頃から使用され始め、ビルの高層化や鉄骨構造化に伴い、鉄骨造建築物などの軽量耐火被覆材として1960年代の高度成長期に多く使用されました。 またアスベストは安価で、耐火性、断熱性、防音性、絶縁性など多様な機能を有していることから耐火、断熱、防音等の目的で使用されてきました。 その使用形態は以下のようなものがあります。
① 吹付け石綿
石綿とセメントを一定割合で水を加えて混合し、吹き付け施工したものを言います。 使用期間は1956年頃~1975年頃までです。 吹付け石綿としては、クリソタイル(白石綿)、アモサイト(茶石綿)、クロシドライト(青石綿)以外にトレモナイト石綿も使用されていました。 石綿含有率は、鉄骨耐火被覆用では約60重量%、吸音・結露防止用では約70重量%でした。 1987年以降、吹付け石綿対策の1つとして「封じ込め」が行われたことがあり、まだ目に見えないところで封じ込められた吹付け石綿が残存している場合があります。
② 吹付けロックウール
1975年に吹付け石綿が原則禁となって以降は、吹付けロックウールに切り替わっていましたが、1990年頃までは石綿を混ぜて使用していました(石綿含有量は5重量%以下)。 パーライトやセピオライトを原料に使用していた場合にもクリソタイルやトレモライト石綿を含有する場合があります。 吹付けバーミキュライトの場合にも、角閃石族石綿に属すウィンチャイト、リヒトライト、トレモライト石綿を不純物として含有するアメリカモンタナ州リビー産(商品名ゾノライト)のものが使われていたことがありました。 その後の吹付けロックウールには石綿は使用されていません。
③ 石綿含有保湿材
石綿含有保湿材は、クリソタイルを使用したものとアモサイトを使用したものがありますが、後者を使用したものが圧倒的に多く製造されました。 石綿とその他の天然鉱物等を原料にして成形した珪藻土保湿剤、パーライト保湿剤、石綿けい酸カルシウム保湿剤、バーミキュライト保湿剤や水練り保湿材があります。 これらは化学プラント、ボイラーの本体や配管に使用されてきました。
④ その他の石綿含有建築材料
石綿含有材料は、前述の鉄骨等の耐火被覆材や吸音・結露材以外にも、内装材(天井、壁、床材)、外装材、屋根材、煙突材などに使用されてきました。 石綿含有耐火被覆板、石綿含有断熱材、石綿含有整形板があり、スレート波板、スレートボード、けい酸カルシウム板(第1種、第2種)、スラグ石膏板、パルブセメント板、押出成形セメント板、窯業系サイディング、住宅用屋根化粧スレート、ロックウール吸音天井板などの名称で呼ばれています。 多くはクリソタイルを使用しており、石綿含有率は製造年代で異なりますが、25重量%以下です。 一般的に製造年代が古いほど石綿含有量は高いと言えます。 日本では1955年頃~1989年まで塩化ビニール石綿床タイルが製造・使用されていました。
⑤ 石綿含有摩擦材
主にクリソタイルまたは石綿布を樹脂で固めたもので、自動車や産業用(クレーン、エレベーター等)のブレーキライニング、ブレーキパッド、クラッチフェーシング、クラッチライニングがあります。 20004年10月1日以降輸入・製造・使用は禁止されています。
⑥ その他の石綿製品
石綿はセメントとの親和性が良く、また補強にもなることから建材以外にも石綿セメント製品が様々な用途に使用されてきました。 パイプ(円筒)状のものは煙突、排気管等の低圧管と上下水道用の高圧管があり、煙突にはアモサイトが、水道用高圧管にはクロシドライトが使用されていました。
また、タンクやパイプラインなどを接続する際の継ぎ目からの液体漏れを防止するためのシール材としてパッキング(一対のシール部分が互いに運動する箇所に使用される)や、ガスケット(配管などのフランジ部分に固定され、動くことがない場所に使用される)などのジョイントシートはゴムと石綿を主原料とし、石綿含有量は主に65%以上でした。 ほとんどはクリソタイルが使用されていましたが、1974年以前の耐酸性シール材にはクロシドライトも使用されていました。 2006年9月1から一部の限定された用途の石綿ジョイントシートのみ製造・使用等が許可されていましたが、2012年3月から完全に製造・使用は禁止されました。 石綿紙は、ソーダー用電気隔膜、電気絶縁材、ビニール床タイルの裏打ち材(1987年に使用中止)などに使用されてきました。 歯科技工で使用される石綿リボン(クリソタイル)の大手による販売は1992年までに中止されています。 石綿を含有する建築仕上塗材(含有量5%以下)は1970年~1999年、下地調整塗材は1970年~2005年まで使用されていました。肉眼では白い粉に見える「テーリング」、「カレドリア」は短繊維クリソタイルです。
3、アスベストが原因で発症する病気は?
アスベストはそこにあること自体が直ちに問題なのではなく、飛び散ること、吸い込むことが問題となるため、労働安全衛生法や大気汚染防止法、廃棄物の処理及び清掃に関する法律などで予防や飛散防止が図られています。
アスベストの繊維は肺線維症(じん肺)、悪性中皮腫の原因になると言われ、肺がんを起こす可能性があることが知られています。 アスベストによる健康被害は、石綿を吸ってから長い年月を経て出てきます。 例えば、中皮腫は平均35年前後という長い潜伏期間の後発病することが多いとされています。 アスベストを吸い込むことにより発生する疾病としては主に次のものがあります。
① 石綿(アスベスト)肺
肺が線維化してしまう肺繊維症(じん肺)という病気の1つです。 肺の線維化を起こすものとしてはアスベストの他、粉じん、薬品等の多くの原因が挙げられますが、アスベストの曝露(ばくろ)によっておきた肺繊維症を特に石綿肺と呼んで区別しています。 職業上アスベスト粉じんを10年以上吸引した労働者に起こると言われており、潜伏期間は15~20年と言われています。 アスベスト曝露をやめた後でも進行することもあります。
② 肺がん
アスベストが肺がんを起こすメカニズムはまだ十分に解明されていませんが、胚細胞に取り込まれたアスベスト繊維の主に物理的刺激により肺がんが発生するとされています。 また、喫煙と深い関係にあることも知られています。 アスベスト曝露から肺がん発症までに15~40年の潜伏期間があり、曝露が多いほど肺がんの発生が多いことが知られています。
③ 悪性中皮腫
肺を取り囲む胸膜、肝臓や胃などの臓器を囲む腹膜、心臓及び大血管の起始部を覆う心膜等にできる悪性の腫瘍です。 若い時期にアスベストを吸い込んだ方の方が悪性中皮腫になりやすいことが知られています。 潜伏期間は20~50年と言われています。
4、今春の法改正で変更される事項
健康被害を引き起こすことがわかり、2006年9月1日に施工された改正労働安全衛生法施行令により、石綿(アスベスト)の使用が全面禁止となりました。 アスベストが重量0.1%を超えて含有するすべての物が禁止されました。 また、宅地建物取引業法改正によりアスベスト使用の有無の調査結果が記載されている場合は、その内容について重要事項説明で書面により説明が必要となりました。
アスベスト対策の一環で、今春から何が変わるのでしょうか? まずは2021年4月に行われた「大気汚染防止法」の改正によってどのようなことが変更されたのかを整理することが大切です。
アスベストが含まれているかどうかを目視や設計図等で確認する「事前調査」があります。 その実施と調査結果を3年間保存することが義務付けられました。 事前調査は解体やリフォーム等すべての建築物で実施が求められます。 調査は主に現地で部材の製品情報などを目視で確認する方法と、設計図など所有者から提出された書類を基に確認する方法があります。 木材や金属、ガラス、畳などで明らかにアスベストが含まれていない部材以外はすべてが調査対象となります。これまで規制の対象外だった「石綿含有形板」など、アスベストを含むすべての建材が規制の対象となり、違反があった場合には3ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されるようになりました。
2022年4月からは、この事前調査の結果を行政に報告する義務が加わりました。 報告が義務付けられる工事は規模で決まります。 建築物の場合、「床面積が80㎡以上の解体工事」や「請負金額が100万円以上の改修工事」が対象となります。報告義務を負うのは、解体やリフォームの請負業者で、アスベストの有無に限らず、調査結果を報告しなければなりません。
このような規制強化によって、物件の解体やリフォームに伴う費用にどのような影響が考えられるのでしょうか? 事前調査にかかる費用は所有者負担となりますが、平均的に1現場で3~5万円です。 アスベストが含まれている可能性がある部材ごとに検体を採取して、専門機関に調査を依頼します。 事前調査はすでに義務付けられているためこのコストは変わりませんが、調査対象となる検体の数が増えればその分コストが増える可能性があります。 事前調査でアスベストが含まれていることが判明した場合、さらに費用がかかることになります。国土交通省によると、アスベスト含有吹付け材の除去費用の相場は、処理面積が1000㎡以上の場合で1㎡当たり1~3万円、処理面積が300㎡以下の場合は2~8.5万円とされています。
アスベストを含む建材の使用は2006年に禁止されましたが、それ以前に建てられた建築物にはアスベストが含まれている可能性があります。
5、まとめ
アスベストを含む建材の使用は2006年に禁止されましたが、それ以前に建てられた建築物にはアスベストが含まれている可能性があります。 弊社は以前より石綿含有建材の事前調査についての勉強会を何度も実施し、体制を整えてきました。 屋根や外壁リフォームの際の事前調査についてお困りの事がございましたら、ぜひご相談ください!
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