暖かい家が健康を守る時代へ

1、はじめに

ケガや大きな病気のきっかけになるなど、家庭内事故は健康寿命を縮めてしまう恐れがあり、65歳以上の方は特に気をつけたいものです。                                     家庭内事故は冬に増加する傾向が見られ、原因の1つに「家の寒さ」が挙げられます。            家の断熱性を高めて、寒くない家にすることが健康を守るために大切なのです。

2、65歳以上は室温18℃以下に要注意!

一般に室温が下がると血圧が上昇し、室温が上がると血圧は低下します。                 例えば、「暖かい部屋から寒い廊下に出て、さらに裸になり熱いお風呂に入る。」このような行動に伴う温度変化が体に与える衝撃をヒートショックと言いますが、血圧が乱高下し、心拍数も急激に変化し、脳出血や脳梗塞、心筋梗塞などを引き起こす原因になります。                            お風呂での事故が多いのはそのためです。                                 部屋と廊下・浴室の温度差が大きいほどお風呂のお湯も熱くしがちなので、よりショックが大きくなります。

では健康のためにどのぐらいの室温に保てばいいのでしょうか? 

室温は18℃以上が目安と言われています。                                    それ以下になると呼吸器系疾患に影響が出るなど、様々な疾患のリスクが高まるので注意してください。                  イギリスでは、国の医療費負担減らすために室温が18℃以下になる賃貸住宅は建築できないという厳しい基準が設けられているほどなのです。

3、寒さの原因は「ノー断熱」

暖房をつけていても足元から冷えるのは、必ずしも隙間風のせいではありません。             外の冷気が壁や床、窓などから伝わり、冷たい気流となるコールドクラフト現象によるものです。この現象は家の断熱性が低いために起こります。断熱するというのは、床、壁、天井に断熱材を装填し、窓に複層ガラスなどを用い、家を暖かい空気の層で魔法瓶のように包むことです。                                       断熱は、省エネルギー基準に沿って行われ、基準は年を追って厳しくなってきました。

①1980年基準:省エネルギー基準ができ、住宅が断熱されるようになったが、十分な性能ではなかった。                                                                                                                                                                                                                       

②1992年基準:断熱材の厚さなどを増やして断熱性能をアップさせた。                                                                                                                                                                                                                        

③1999年基準:開口部の断熱が首都圏などでも義務付けになるなど、断熱性能が大きく向上。                                      断熱性能としては現在の最高レベル。                                          

                                                ④2013年基準:上記の断熱に加えて住宅性能の省エネ性能も加味されるようになった。           

しかし基準が義務付けではなかったこともあり、全国5200万戸の既存住宅のうち、今のところ最新の断熱基準である1999年基準を守って建てられている家は5%にすぎません。                        ほとんどの家は無断熱か不十分な断熱しかされていないのが現状です。                   これではいくら暖房をつけても暖まりにくいし、まして廊下やトイレ、浴室などが暖まることはないのです。

4、断熱すると健康になる

家の寒さと健康への影響を実際に調べた事例をご紹介します。

高知県のある町の家を冬に訪問したところ、居間は20℃近くあるのに廊下や浴室は10℃程度で、かなりの温度差がありました。                                          住んでいる70代の男性が入浴しようと暖かい居間から廊下へ出た時に心拍数が一気に増加し、脱衣所で服を脱ぐとさらに心拍数が増加。                                          そして熱い湯船につかって10分が経過すると、今後は急激に心拍数が減少しました。             温度差の大きい住宅では体への負担が大きいことわかります。                      同じ男性に断熱性に優れたモデルハウスに宿泊してもらったところ、入浴時の心拍数の変化は半分に抑えられ、負担が軽減されることがわかりました。

また、血圧との関係については、築37年の木造住宅に断熱リフォームを実施して調べました。70代女性の起床時の血圧をリフォーム前とリフォーム後の冬、それぞれ約2週間ずつ測定しました。リフォーム前の起床時平均室温は8℃で、最高血圧の平均は146㎜HGと高血圧レベルでした。これがリフォーム後には、起床時の平均室温が約20℃に上がり、最高血圧の平均は134㎜HGに下がり、正常な範囲に収まりました。

こうした検証からわかることは、多くの人々は様々な病気のリスクを抱えていて、実際に様々な疾患を抱えている人は寒い家で暮らしている可能性があるということです。

5、高断熱化は医療費や光熱費の削減にも

また、以前よりも断熱性能の高い住宅に転居した居住者450人を対象に、健康効果の経済価値換算を試行的に実施しています。                                          「暖かさ・涼しさ」の改善による健康症状への影響は、心疾患・脳血管疾患などの循環器疾患に抑制だけでなく、アレルギー性鼻炎・アトピー性皮膚炎の緩和、睡眠の質の向上などにもつながると言われています。諸条件によって異なりますが、断熱性能の優れた住宅に暮らすことにより、これらの疾患改善に伴う医療費削減だけでなく、所得損失を回避することも可能になります。                            もちろん住宅を高断熱することは、冷暖房や給湯温度などにも関わり、光熱費の削減効果が期待できます。

6、まとめ

快適さはもちろん、健康面でも光熱費削減の面でも住宅の高断熱化は重要ポイントだということがご理解いただけたと思います。                                          生活スタイルが変化し、家で過ごす時間が長くなることで今まで気がつかなかった不満や不具合が表面化し、リフォームを検討される方も増えています。                                 寒さを感じるこの時季、家の間取りや空間づくりだけでなく、健康で長く暮らすために断熱リフォームをして暖かい家にすることを検討してみましょう。