1、はじめに
屋根には形状や材質の違いにより様々な種類があります。 屋根の種類によって家の見た目が変わるだけではありません。 屋根の耐久性やリフォームの費用まで変わる可能性もあるのです。 屋根にはトラブルが起こりやすい場所があり、その場所が多い屋根は雨漏りをはじめとするトラブルに注意が必要です。 また、屋根材によっても屋根の特徴や耐久性は異なります。 ご自宅の屋根の種類を把握しておくと 「どんなトラブルがどの部分で起こりやすいのか?」 「いつ頃リフォームが必要になるか?」 「どんなリフォームをするべきなのか?」 などがわかり、雨漏りなどの深刻なトラブルを未然に防ぐことができます。 今回は屋根の形状の種類と特徴、屋根にまつわるトラブルの種類などについてご紹介します。
2、屋根のトラブルが起こりやすい場所とは?
すべての屋根の形に共通することですが、屋根に関するトラブルが起こりやすいのは次の4箇所です。
① 屋根と屋根が接している部分:屋根の棟や谷 ② 屋根と壁が接している部分:取り合い ③ 屋根の端:軒やケラバ、破風など ④ 屋根がかかっていない外壁部分
取り合いなど接合部分から雨水が侵入しやすく、屋根の端は雨水の侵入のほかに風や直射日光の影響も受けやすいです。 また、屋根は雨水や直射日光から家を守る働きをしているので、屋根にかかっていない部分の外壁はトラブルが発生しやすくなります。 トラブルが発生しやすい部分が多い屋根の形は、必然的にトラブルが起こりやすいのです。 屋根の形はデザイン上の好みだけでなく、建築コストや居住スペース、敷地面積といった様々な要素から決定されるものです。 全ての屋根のトラブルの起こりにくい形にすることは不可能です。 そのため、ご自宅の屋根の弱い部分や注意点を知り、トラブルが発生する前に対処することが重要です。
3、9種類の屋根の形の特徴とメリット・デメリット
家を建てる時にどのような形の屋根にしようかと悩むことはあっても、屋根を見て何という名前の種類なのかまでわかる人は少ないはずです。 想像以上にたくさんの種類があり、それぞれが特徴が異なります。 次に一般住宅で採用されている9種類の屋根の形の特徴をご紹介します。
① 切妻屋根
傾斜のある2面の長方形で構成されている屋根の形のことです。 屋根面が乗っていない壁側から見ると、屋根の頂点に向けて山型になっています。 とてもシンプルな形の、古くから神社や庄屋などに採用されていたポピュラーな屋根で、現在の新築一戸建て物件においても最も多く採用されています。
【メリット】
・ 屋根の構造が単純であるため、新築時やリフォーム時の費用が比較的安く抑えられる ・ 形がシンプルで取り合い部分が少ないため、比較的雨漏りが少ない ・ 1面あたりの屋根面が広く、太陽光発電用のパネルを効率的に設置できる ・ 和洋どちらの建築様式にも合うので、デザイン面で採用しやすい
【適合する屋根材】
構造がシンプルで造成しやすい切妻屋根は、主要な屋根材のどれも適合します。
【注意点】
切妻屋根の左右両端部分を破風と言います。 破風は雨水直射日光が直接当たるため、劣化しやすい場所です。 破風には水切りという雨水を排出させる構造が設けられています。 しかし、スレート材や金属材の切妻屋根の場合は砂埃やゴミが堆積することで水切りが機能しなくなることがあります。 その場合、屋根の内部に雨水が侵入し、屋根の構造の腐食や雨漏りの原因となります。 また、屋根と屋根が頂上で接している大棟は、雨や風、直射日光の影響で劣化しやすい部分です。 棟を保護している部分にゆるみや浮きが生じると、雨水が侵入してしまうため注意が必要です。 以前の切妻屋根には、左右両端を外壁よりも外に出したケラバという部分があるのが一般的でした。 しかし、現在では敷地面積の問題やコスト削減の理由により、ケラバを出さない切妻屋根も多くなってきました。 ケラバの出がない切妻屋根では、屋根がかかっていない側の屋根と外壁の接合部分に雨がかかるため、雨漏りの危険性が高くなります。
② 片流れ屋根
片流れ屋根は、傾斜をつけた1面の屋根で構成されています。 すっきりとしたシンプルな外観が現代的な建築スタイルにマッチしている点や、屋根面が広く太陽光パネルを広く設置できる点などから、最近10年ほどの間で急速に施工件数が増えている屋根の形です。 片流れ屋根では、屋根裏スペースを部屋や収納に活用できる点も魅力です。
【適合する屋根材】
片流れ屋根には、ガルバニウム鋼板をはじめとする金属板の屋根材を採用するのが一般的です。
【注意点】
片流れ屋根は、雨漏りの危険が高い屋根の形です。 その理由としては、屋根の上端部分で屋根と外壁の取り合いや屋根の側面が雨ざらしとなるため雨水が侵入しやすいことや、屋根が1面しかないため1本の雨樋に大量の雨水が集中し、雨樋があふれて軒先や外壁か雨水が侵入することがあることが挙げられます。 シンプルな外観が特徴の片流れ屋根では、ケラバを出さないデザインが一般的です。 ケラバがないと屋根と外壁の取り合い部分が雨にさらされることとなり、ここでも雨漏りの危険性が高くなります。
③ 寄棟屋根
寄棟屋根は、切妻屋根同様に古くからあるポピュラーな屋根形です。 三角形の屋根2面と台形の屋根2面で構成されています。 雨や風を4面の屋根で分散して受け止めるので安定しており、外壁も全ての面が屋根に守られているため、トラブルが少ない屋根の形です。 劣化・破損しやすい屋根側面の破風やケラバがないことも、寄棟屋根に雨漏りなどのトラブルが少ない理由です。 寄棟屋根は一時期は最も施工件数が多い屋根の形でしたが、15年ほど前から減少傾向にあります。 これは屋根1面当たりの面積が狭いため、太陽光発電のパネルが設置しにくい屋根形であることも一因です。
【適合する屋根材】
ポピュラーな寄棟屋根には、瓦・スレート材・金属板など幅広い屋根材が適合しますが、その半数でスレート材が採用されています。
【注意点】
耐久性が高い屋根ですが、棟が多い欠点もあります。 寄棟屋根には屋根頂上部の大棟に加え、屋根面同士が接する部分に4本の下り棟があります。 大棟同様、下り棟も保護している部材の浮きやゆるみから雨水が侵入する可能性があるので注意が必要です。 また、寄棟屋根には屋根同士の接合部分が多いため、新築時やリフォーム時のコストが比較的高くなることも覚えておきましょう。 雨漏りに強いと言われている寄棟屋根ですが、軒が少ない場合、屋根と外壁の取り合いに雨がかかり雨漏りが発生する可能性があります。
④ 方形屋根
方形屋根は寄棟屋根の変形ですが、4面全ての屋根が三角形になります。 大棟はなく、4本の下り棟があります。 寺社の仏塔などで古くから方形屋根が採用されている点から、方形屋根の機能の高さが伺えます。 ただし、方形屋根にできるのは建物が正方形に近い場合に限ります。 建物が長方形の場合には、寄棟屋根になります。
⑤ 招き屋根(差し掛け屋根)
招き屋根は、切妻屋根の一方が短く、一方が長くなっている屋根の形です。 人を招く時の手の形に似ているころから招き屋根と呼ばれています。 左右の屋根面に高低差があるタイプ屋根は段違い屋根と言います。 段違い屋根も含めて招き屋根と呼ぶのが一般的で、現在ではむしろ段違いの招き屋根の方が多くなっています。
【メリット】
・ 2枚の屋根に風の影響が分散されるため、切妻屋根よりも耐風性が高い ・ 高低差があるため、デザイン性の高い家になる ・ 上側の屋根と下側の屋根の間の外壁に窓を付けることで採光性や通気性が高くなる
【適合する屋根材】
招き屋根には、瓦・スレート・金属板など主な屋根材のどれもが適合します。
【注意点】
招き屋根の注意点は切妻屋根と同様です。 さらに段違いの招き屋根は、下側の屋根と外壁の取り合いで雨漏りがしやすくなります。 上側屋根の上端部や、上側屋根と下側屋根の間の外壁も雨水が侵入する危険が高いです。
⑥ 袴腰屋根
袴腰屋根は、切妻屋根の上端部を斜めに切り取り、三角形の小さな屋根面をつけた形状の屋根を指します。 半切妻屋根とも呼ばれ、建物に対する採光や通風を確保するための北側斜線制限や道路斜線制限がある場合に採用される屋根の形です。
【適合する屋根材】
袴腰屋根はどの屋根材でも造形が可能です。 小さな三角形の屋根部分の施工が比較的容易な金属板やアスファルトシングルなどがより適していると言えます。
【注意点】
袴腰屋根の注意点は切妻屋根と同様です。 さらに、三角形の小屋根と大屋根の接合部分は雨水が侵入しやすいです。
⑦ 入母屋屋根
入母屋屋根は、屋根の上部は切妻屋根、下部は寄棟屋根の構造です。 日本では古来より神社仏閣で用いられ、一般住宅でも格式の高い屋根として採用されてきました。 重厚感があり格調高い入母屋屋根ですが、洋風建築ではほとんど採用されず、新築物件で採用されることもほとんどなくなりました。
【適合する屋根材】
入母屋屋根は純和風建築で採用されることが大半であるため、屋根材も和風の瓦を採用するのが一般的です。
【注意点】
瓦葺きの場合が大半であるため、台風や強風による瓦の破損に注意が必要です。 屋根同士が接合する部分が多いため、雨漏りに注意しなければいけない部分も多くなります。 大棟、下り棟とともに切妻屋根の部分と寄棟屋根の部分が合わさる箇所に注意しましょう。 現在では施行例が少ない屋根の形であるため、補修の際には入母屋屋根を扱える業者を探すところから始める必要があります。
⑧ 越屋根
越屋根は、屋根の棟に小さな屋根が乗っている形の屋根です。 小さな屋根の下に窓が設けられており、通気や採光の役割を果たしています。 かつての日本では、越屋根の下に囲炉裏やかまどをすえ、熱気や煙を越屋根に設けた小窓から逃していました。通気氏がよいために湿気や熱気がこもらず、室内に明かりを取り込めるメリットがあります。
【適合する屋根材】
越屋根に不向きな屋根材は特にありませんが、和風建築で用いられることが多いため瓦葺きの屋根が多くなっています。
【注意点】
越屋根には、小屋根と大屋根が接合する部分が雨水が侵入しやすく、雨漏りの危険性が非常い高い屋根の形と言えます。 屋根の形状が複雑であるため、リフォームの際には費用が高くなる覚悟も必要です。
⑨ 陸屋根
陸屋根は、屋根が1面でほぼ水平になっている屋根の形です。 家全体の形は箱型に近くなります。 鉄筋コンクリートの建造物では一般的な陸屋根ですが、雨が屋根面にとどまり雨漏りの危険が高いため、木造住宅には不向きとされています。 建物がモダンでシンプルな外観になる点や、屋根面を屋上に活用できる点、太陽光発電パネルの設置が容易な点は魅力的です。 木造住宅で陸屋根に見える屋根の多くは、水はけをよくするために緩い勾配を付けている陸屋根風です。
【適合する屋根材】
木造住宅で陸屋根や陸屋根風の緩い勾配の屋根にするためには、雨水が侵入するつなぎ目が少ない葺き方ができる金属系の屋根材が採用されます。 なお、瓦やスレート、アスファルトシングルなどの屋根材は、陸屋根や陸屋根風の緩い勾配の屋根には施工できません。 これらの屋根材はつなぎ目が多く、屋根の傾斜で雨水が排水されない屋根の防水性を保てないためです。 鉄筋コンクリート造りの住宅であれば、ビルの屋上などと同様にコンクリートと防水塗装で仕上げられています。
【注意点】
傾斜がほとんどついていない屋根の形であるため、雨が屋根面にとどまりやすく、雨漏りの危険性が非常に高いです。 鉄筋コンクリート造りであればコンクリートや防水塗装のひびや亀裂、金属系の屋根材であればサビやゆがみなど、放置すれば雨水の侵入につながる不具合に注意しておく必要があります。 さらに、木造住宅で陸屋根を採用している場合、軒やケラバの出がないため屋根と外壁の取り合い部分からも雨漏りの危険性が高くなります。
4、屋根のトラブルの種類と修理の相場
屋根の形、屋根材のには多くの種類がある事をご紹介してきました。 次に屋根に起こりうるトラブルやその修理費用についてご説明します。 屋根のトラブルと言えば真っ先に雨漏りが挙げられますが、雨漏りはすでにトラブルが相当に進行した状態です。 雨漏りで異常に気がついた時には、屋根や外壁の内部が修理できないほどひどい状態になっている可能性が高いのです。 屋根の不具合が生じやすい場所を定期的にチェックし、不具合があれば早めに対処することで深刻なトラブルを防ぐことができます。
① 棟の傷み
屋根と屋根が接する等は雨水が侵入しやすく、風による影響を受けて破損や劣化しやすい部分です。 補修の際、スレートや金属板では棟板金と呼ばれる部材の交換が行われます。 日本瓦の場合は、棟の瓦を固定している漆喰を塗り直す補修が行われますが、日本瓦の補修ができる施工業者が減っているため補修費用が高額になる可能性があります。
【起こりやすい屋根の形】
切妻屋根、寄棟屋根、入母屋屋根、袴腰屋根
【補修費用の相場】
・ スレート、金属板(棟板金の交換):3,000~5,000円 ・ 瓦(漆喰の塗り直し):3,000~7,000円
② 瓦の割れ・ズレ
粘土瓦は非常に耐久性が高い屋根材ではあります。 しかし、瓦を固定している漆喰のはがれや瓦の重みなどによって瓦がずれてくる場合があるのです。 さらに、瓦には割れやすい欠点があります。 瓦の割れや欠けは次のような原因が考えられます。
・ 台風や強風による飛来物 ・ 瓦内部に吸収された水分が凍って膨張することによる凍害 ・ 瓦を鉄釘で固定している場合、釘がさびることによる膨張
割れや欠けが見つかった場合には、撤去し新しい瓦に入れ替えます。
【起こりやすい屋根の形】
瓦を用いた屋根全般
【補修費用の相場】
5~15万円(補修範囲による)
③ 塗装のはがれ
スレートやセメント瓦など素材そのものに耐水性がない屋根材では、表面の塗装によって防水性能を保っています。 おおよその目安として、10年前後を目安に再塗装を検討しましょう。 屋根全体の再塗装では、多くの場合足場を組んでの作業となりますが、足場代だけで10~20万円前後の費用がかかります。 そのため、同じく足場を組んで作業する外壁塗装に合わせて屋根の再塗装を行うとコストの削減ができます。
【起こりやすい屋根の形】
スレートやセメント瓦を使用している屋根全般
【補修費用の相場】
50~100万円(足場代、養生などの費用も含む:屋根面積、塗料の種類によって異なる)
④ 破風や軒裏の劣化
屋根材そのものだけでなく、風雨や庁舎日光によって劣化しやすい破風や軒裏も、定期的なメンテナンスが必要になります。 破損がない場合は塗装で補修します。 しかし、劣化の程度が進行し塗装での補修が難しい場合は、金属板の破風や新しい軒裏で補修するカバー工法か交換による補修を行うことになります。 屋根の塗装と同様、破風や軒裏の補修作業では仮設の足場を組む必要があります。 総工事費用は夏季の費用相場に足場代を加算したものとなるため、外壁塗装や屋根塗装と合わせて行うのが一般的です。
【起こりやすい屋根の形】
・ 破風の塗装、補修が必要な屋根:切妻屋根、招き屋根、袴腰屋根 ・ 軒裏の塗装、補修が必要な屋根:軒がある屋根の形全般
【補修費用の相場】
・ 破風の塗装:800~1,600円/m ・ 破風の板金補修:2,000~4,000円/m ・ 軒裏の塗装:50,000~150,000円(足場代別) ・ 軒裏のカバー工法:150,000~200,000円(足場代別) ・ 軒裏の交換:200,000~300,000円(足場代別)
⑤ 雨樋の詰まり
屋根とはあまり関係がなさそうに見える雨樋ですが、雨水を屋根から速やかに排出する重要な役割を果たしています。 雨樋の不具合で雨水が溢れたり漏れたりすると、雨漏りの原因となるため注意が必要です。 合成樹脂製の雨樋は、塗装による補修で劣化を抑え、耐久年数を延ばすことができます。
【起こりやすい屋根の形】
片流れ屋根など屋根面に降る雨水が雨樋に集中して流れる屋根の形
【補修費用の相場】
・ 一部分のみ:10,000~20,000円 ・ 全体の塗装:50,000~100,000円(足場代別) ・ 雨樋全体の交換:200,000~300,000円(足場代別)
5、まとめ
ご自宅であっても普段目にすることが少ない屋根ですが、屋根の形や材質には多くの種類があり、それぞれ特徴が異なっています。 ご自宅の屋根の特徴を知り、不具合が起こる前にメンテナンスを行うことで大切な資産である家を守ることができます。 屋根のメンテナンスを行う際にも、屋根の形によって費用が異なってきます。 シンプルな形の切妻屋根や片流れ屋根のお家だと費用の比較的安くなります。 また、屋根に関するメンテナンスは信頼できる業者に依頼することも重要です。
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