窯業サイディングにまつわる問題の中で恐らく最も猛威を振るっているのが【凍害】と呼ばれる状態異常です。 本記事ではそんな凍害についての解説並びに凍害が起きてしまった場合の補修方法について説明していこうと思います。
1、凍害とは
窯業サイディングやコンクリート、モルタルなど、骨材と結合材の組み合わせにより成型される製品に起こりうる症状で、『ポップアウト(えぐれ)』と呼ばれる状態異常を引き起こす原因の一つとしてカテゴライズされています。
凍害について厳密に定義するとややこしくなるため、以降本記事では『凍害』という言葉を「凍害により窯業サイディングに生じるポップアプト(えぐれ)」として話を進めていきます。
2、凍害による弊害
凍害はその症状の進行具合により程度はあれど、総じてすぐに補修対応をすべき状態異常です。
最初は凍害の症状的に軽度であったとしても、シーズンを重ねるごとにその範囲や数が指数関数的に増大してゆき、壁面全体が崩れることになりかねません。
また、深刻な凍害を放置し続けると、水分が外壁の下地材(胴縁)や構造材(柱、間柱、土台等)をも侵食していく恐れがあり、中長期で見ると建物全体の強度にも悪影響を及ぼすことは必至です。
3、凍害発生のメカニズム
凍害は、窯業サイディングに染み入った水分が冬の冷気により凍りつき膨張することで発生します。
つまるところ、窯業サイディングの内部で水が氷になり、その体積が膨張することでサイディングの内部から骨材を外に押し出してしまうのです。
それでは、そもそも窯業サイディングにどうやって水が染み込むのかも含め、そのプロセスについて少し詳しく見て行きましょう。
【凍害発生のプロセス①:窯業サイディングに水が染み込む】
窯業サイディングはパルプなどの繊維質やセメント、けい酸カルシウムで構成されています。
これらの原材料はいずれも水を吸いやすく、したがって窯業サイディングについても無垢のものは水分が染み込みやすいと言えます。窯業サイディングは超強化された紙粘土だと思ってもらえばこのことが理解しやすいかと思います。
頼みの綱は、窯業サイディングの表面に施される防水コーティングや塗装なのですが、窯業サイディングをカットしたときの断面や、紫外線などで塗膜劣化を起こした部分は無防備になってしまい、水がじわりじわりと染み込んでいくことになります。
【凍害発生のプロセス②:染み込んだ水の凍結でサイディングが内側から破壊される】
南国であればともかく、北陸や東北、北海道などでは普通に冬場の室外気温が氷点下を下回ります。このため、必然的に窯業サイディング内部に滞留している水分が凍結してしまいます。
言うまでもなく水が氷になるとその体積は大きくなります。そして、その体積により窯業サイディング表面が内部からすこしずつ押し出されていくこととなります。
【凍害発生のプロセス③:染み込んだ水の凍結・融解が繰り返される】
もちろん、一度内部で水分が凍結し膨張した程度で崩壊するほど窯業サイディングは弱くはありません。
しかし、昼夜の気温差や暖房のオンオフにより窯業サイディング内部の水分が断続的に凍結、融解を繰り返せば、少しずつそして確実にダメージが蓄積されていきます。
また、冬は毎年やってきます。1シーズン様子をみて問題ないことに安心し翌シーズン以降放置を決め込んでいると、ある春の日に突然目も当てられない状況になっている外壁と対面することになるかもしれません。
少しでも凍害の発生があったら、甘く考えずに、次の冬が来てしまう前になんらかの対応するべきでしょう。
4、凍害に対する補修
凍害に対する補修は大きく分けて塗装か新規材の張り替え・張り増しの2パターンになります。
ただし、塗装という選択肢を取るにあたり、凍害の程度に応じた塗装対応の可否判断および凍害再発のリスクの許容が不可欠になってきます。
この点を踏まえながら凍害の進行度合いに応じた対応の方法を説明していきます。
【軽症の凍害の場合】
米粒ほどのサイズの凍害がちらほらと点在している程度であれば、軽症の部類に入ります。
塗装だけで問題なく対処できる状態ではあるものの、その工程には少し工夫が必要となってきます。
まず、凍害が起きている面については塗装前の高圧洗浄を軽く行う程度にとどめる、もしくは一切を省きます。本来、外壁塗装を行う前は念入りな高圧洗浄をして然るべきなのですが、脆くなっている凍害部の傷を広げないことを優先させるべきです。
高圧洗浄を省く場合は、代わりに塗料用シンナーを含ませた布などで汚れを丁寧に拭き取ります。高圧洗浄を軽くかけた場合は、凍害のある面だけ数日の間塗装作業をストップし、塗装対象から水分がしっかりと抜けるのを待ちます。
次に下塗りです。凍害発生部はサイディングの素地が露わになっており、言ってみれば紙粘土のような状態となっています。そのため液体を激しく吸い込み、下塗り材を一度塗っただけではその表面をコーティングしきるに至りません。この対策として、通常1回で事足りる下塗りを2回行います。これにより凍害発生部をガチガチに固めてやるのです。
なお、この下塗り材として用いる製品は、塗装対象の吸い込み抑制と塗装面の形成を同時に行う機能を持ったものが理想的です。以降は中塗りと、上塗りを通常の外壁塗装と同様の工程で行い補修完了になります。
【中等症の凍害の場合】
豆粒ほどのサイズの凍害が見受けられる程度になると、中等症の部類に入ります。
中等症の凍害は、辛うじて塗装だけで補修可能なラインです。ただし数年で凍害が再発するリスクは認知すべきであり、したがってそのリスクを回避するため新規外壁材を張るという選択肢の検討も併せて行うべきです。
塗装で対応する場合、通常の下塗りに用いられるシーラーではなく、フィラーというカテゴリの材料を使用することになります。この点も含め、以下で工程を説明していきます。
まずは、軽度の凍害の場合と同様に、塗装面に対し軽めの高圧洗浄かもしくはシンナー清掃を施します。高圧洗浄をかけた場合には、塗装面から水分をしっかりと抜くため塗装作業開始まで、数日の間を置きます。
下塗りに移る前に、特にえぐれが深い部分に対してシーリング材を充填します。可能であれば、シーリングを埋め込む部分はサンダーなどでVカット処理を施した上で、シーリング充填を行います。
充填したシーリングに弾力が出てきたら、フィラーと呼ばれる下塗り材を塗装面に塗布します。フィラー(filler)は充填材を意味しており、その名の通り塗装面の不陸をある程度平滑にする機能を持っています。フィラーにも幾つか種類はあるものの、凍害の発生している窯業サイディングに対しては、セメント系のフィラーを使用するのが適切だと思います。以降については通常どおり中塗りと上塗りを行い補修完了となります。
【重症の凍害の場合】
豆粒より大きいサイズの凍害が点在している場合、心苦しいですがその窯業サイディングは重症です。
お客さんは塗装でどうにかなる(どうにかしてほしい)と思っていても、塗装業者としては出来ることがありません。なぜなら、その状態になると塗装しても確実に数年で凍害が再発することが目に見えているからです。
そのため、新規外壁材を張ることが唯一の補修方法となります。
既存の外壁を一度剥がして新しい窯業サイディングを張ったり、既存の外壁の上から新規の金属系サイディングを張ったりなど工法の違いはあれど、新規の材料を使用するからには塗装をするよりも費用がかさみます。
こうなるまえに前に凍害発生を察知できるように、外壁の状態には目を配っておきたいところですね。
5、凍害を起こさないために出来ること
【窯業サイディングを使わない】
新築もしくはリフォームで使用する外壁材を選ぶにあたり、いっそ窯業サイディングを選択肢から除外してしまうのも一つの手です。
代わりに凍害発生のリスクとは無縁の『金属サイディング』あたりを使用するのが適切でしょう
【定期的に外壁塗装とシーリングの打ち替えを行う】
凍害を防止するためには、とにもかくにも窯業サイディング内に余計な水分を染み込ませないことが重要です。
先の記載したように、窯業サイディングへ水分が染み込む主たる経路は『塗膜が劣化したサイディング表面』、『シーリングが痩せたことで露わになったサイディングの切断面』です。
つまるところ、この外壁表面の塗膜とシーリングの劣化が始まる前に、それぞれを一新してしまえば多くの凍害の原因を根本から断つことができます。
外壁塗装やシーリングの打ち替えは、それだけでちょっとした工事であり、頻繁な実行は家計にとって大きな負担になります。ただし、風が当たりやすい北面や日射が最も大きい西面だけに絞ってメンテナンスの頻度を上げるなどして、出費を最小限に抑えながら長期にわたり外壁の状態を良好に保っていくことが可能です。工夫次第だと思います。
6、まとめ
窯業サイディングを外壁材として採用することには多くのメリットがありますが、一方でこの凍害と言われる状態異常の発生リスクが付きまとうというデメリットがあります。
しかし、必要以上に恐れることはありません。凍害は業者に窯業サイディングのメンテナンスを依頼することでその発生を未然に防ぐことが出来ますし、仮に発生してしまったとしても軽症であれば塗装のみで対応が可能です。
つまるところ、大事なのは窯業サイディングの状態をたまにチェックすること、そして違和感を感じたらすぐに業者に調査を依頼するなどのアクションを起こすことです。
億劫かもしれませんが、大規模に修繕工事を行うとなるともっともっとめんどくさいことなります。将来のご自分の負担を軽くすると思って少しだけ気合を入れましょう。